金物工法
金物工法の開発の方向性が変化してきた。従来は接合金物を使って柱―梁など軸材を接合するものが中心だった。しかしCLTなどの面材、厚盤が構造に使われるようになり、従来の継ぎ手・仕口を金物に置き換えるものや、長ビスやLSB(ラグスクリューボルト)、GIR(グルードインロッド)などの多様な接合方法が登場してきた。金物工法の供給も増加している。これまでは住宅向けが主流だった金物工法だが、一般流通材を活用して中大規模木造建築を実現しようという動きも活発化している。住宅用に開発された接合金物も中大規模木造、非住宅木造で生かされるようになっている。
非住宅でも業界リード
タツミ(新潟県見附市、山口紳一郎社長)は金物工法のパイオニアで、シェアナンバー1のテックワンを製造・販売する住宅金具総合メーカー。近年はプレカット工場としての存在感も高まっており、戸建てから非住宅、基礎から屋根まで、安心・安全でコスト合理性の高い商品を提案している。テックワンは従来のものと比べ木材の欠損部分が少なく耐力が大幅にアップ。他にも寸法精度の向上、簡単施工で現場作業性が向上、断熱材パネルなどがすっきりと収まるなどの特徴がある。性能認定やプレカット工場への技術提供などを積極的に行っており、それがシェアナンバー1たる所以だ。
コネクタ変形で地震力吸収
新たなコネクタやサービスの開発を進めるストローグ(富山県滑川市、大倉憲峰社長)は制震機能を加えた「フェイス・ダンパー」を改良し、販売を始める。従来の制震ダンパーなどとは異なる開発思想で櫛型のコネクタを設け、そこで地震力を吸収する仕組みだ。壁倍率の認定も取得し、壁パネルとセットで提供する。「従来の制震ダンパーに比べ大幅にコスト低減ができる」(同社)。フェイス・ダンパーはコネクタが変形して大地震時の地震力を吸収できるもので、柱と耐力面材の固定に使用する。真壁床勝ち仕様で壁倍率4・2倍、大壁仕様で3・9倍の大臣認定を取得している。
現場負担少ない独自金物
サンクレテック(千葉県袖ケ浦市、小林進社長)は、タツミのテックワンのほか、オリジナル金物「ツイステック」の加工・販売を手掛けている。ツイステックは、接合部をひねったツイスト形状の金物を特徴としている。フラット形状の金物と組み合わせることで、ボルトを使わずドリフトピンだけで接合できる。工場では金物の取り付けがしやすく、作業効率が高まる。在来工法と同じ梁勝ち構造を基準としているため、現場の職人がスムーズに対応できる。現状のツイステックは2社が外販しており、いずれも安定した売り上げを記録している。
SSマルチ、供給体制が充実
タナカ(茨城県土浦市、田中司郎社長)は金物工法「SSマルチ」の供給棟数が月間420棟(前年比5%増)まで拡大してきた。プレカット加工拠点も63工場(同3工場増)と全国に行き渡り、一定のシェアを確立した形だ。総合金物メーカーとして在来金物から2×4金物まで幅広く取り扱う提案力と、全国9カ所に営業所、5カ所に物流拠点を持つきめ細かな顧客対応力を強みに、引き続きシェア拡大に力を入れていく。SSマルチは梁受け金物のボルト穴に転造ねじ加工を施したナット不要の金物工法で、出幅が6.6㍉と小さく、座金が一体化したマルチボルトを使うことで取り付け作業を効率化したのが特徴。
独自の梁受金物を展開中
スカイ(静岡県磐田市、高橋幸嗣社長)は、梁受け部などの仕口欠損問題に対応するオリジナル梁受け金物「スカイジョイント」を展開している。採用物件数は2016年実績で住宅が月間90棟、非住宅物件が年間で370棟。今後も適材適所な使用を提案していくほか、広範な金物工法の受注対応を進めていく。スカイジョイントは、同社が独自開発したT字型の梁受け金物で、丸くなっている羽根先端部分がパイロットピンの役割を果たして梁のずれを防ぎ、底面の「座」が組み込む材を受けることでボルト緊結等の施工を容易にする。
材料調達から加工まで対応
ウッドワイステクノロジー(浜松市、齋藤幹一郎社長)は、ムク材対応の木造接合金物「ウッドテック」を展開している。工法では金物+落とし込み間仕切りパネルを使う「TERRA(テラ)構造」、ラーメン構造の「ウッドワイスラーメン構法」の普及を進めている。ウッドテックは杉・桧等のムク材を使った現し工法に対応する柱脚柱頭・梁受け金物で、新築躯体への部分的使用から耐震補強リフォームまで活用できる。現し天井にもなじむよう金物下端の形状と色を工夫している。2011年の事業本格化以降、採用数は増加しており、特に非住宅物件での採用が目立っている。
異業種と協力
アップルピンシステムズ(東京都、中島一社長)は、APS工法の金物を製造・開発している。同工法は広く認知されており、住宅のほか、賃貸物件など非住宅分野での利用も増えている。頑丈な躯体形成によりスケルトン・インフェルとして部屋の間取り変更などを円滑にできることも評価されている。またAPSホールダウンはアップルピンを基本にしたネジ式で、取り付けが他のホールダウン金物に比べ容易。レベル調整も簡単で、土台サイズで90、105、120㍉角のすべての土台角で使用が可能だ。中島社長は「工務店やビルダーでも企業ごとに利用してもらうケースも増えている。今後は、このような使用例も他社に知ってもらってさらに利用を広めていく」と語る。
ホームコネクター、中大規模木造で増加
スクリムテックジャパン(福岡県筑紫野市、河野泰之社長)が販売するホームコネクターは、中空式の金物で接着剤を併用して木材を接合する。利用のしやすさから、中大規模の木造建築物での利用が増えている。松尾建設(佐賀市、松尾哲吾社長)の新社屋建設事業は、2016年度サステナブル建築物等船頭事業(木造先導型)にも採択。ハイブリッド・ビームとLVLの合成梁で大スパンを構成しており、このラーメン構造にホームコネクターが用いられている。同事業では、ホームコネクターを利用したラーメン構造におけるルート2での確認許可が下りており、建設評価機関からもその性能が認められている。
部分スレッドタイプ「パネリードS」投入
非住宅・中大型建設向けの構造用ビス「パネリードX」の供給で知られるシネジック(宮城県富谷市、苅部泰輝社長)は重ね梁など2材を接合するのに有効な部分スレッドタイプの構造用ビス「パネリードS」を投入し、CLTをはじめ非住宅・中大型建築で想定される多様な接合部のニーズに対応できる体制を整えた。同社ではビス開発と普及に力を入れており、今後は建築士や木構造建築事業者など関連企業と連携しながら、ノウハウの蓄積とマーケットの創出を目指す。
Xマークねじ開発も
カナイ(埼玉県八潮市、金井亮太郎社長)は、接合金物やねじなどの建築金物を総合的に供給できる体制を生かし、採用を増やしている。同社は、大手ハウスメーカー向けとともに、ビルダーが独自に取り組む制震・免振金物の製造にも携わっている。CLTに関連する金物開発にも積極的だ。住木センターが認定するZマークのタッピングねじ、X(クロス)マークの金物の両方に、初期から取り組んでおり、同社関連工場で適切な製品が製造できるよう、生産体制を整えてきた。タッピングねじ、Xマーク金物ともに、2017年度には住木センターの認定を取得できる予定だ。
安心感でロングセラーに
山口県の有力ビルダー、原工務店(山口県防府市、村谷剛社長)が開発した「ハラテック21」は、一代で同社を築いた先代社長の原孝夫氏が考案した。職人から起業した原氏は阪神大震災後、強度が高く、安心できる家造りを目指して考案した金物を全国展開した。開発から20年近く経った現在も、各地に使い慣れたビルダーが点在し、金物の出荷は安定したペースを保っている。ハラテック21はワンスリットの肉厚な構造が特徴。海に面した住宅のバルコニー部分に使用した例でも、10年以上腐食していない。
繰返し地震に強いブレスターZ600
岡部(東京都、廣渡眞社長)の特殊なスリット形状を持つ木造筋違用接合金物「ブレスターZ600」が好調だ。制震工法などを従来に比べ安価に導入できる。告示1460号の定める接合部の引っ張り性能と同等以上の性能があることが確認されている。同社は岡部総合実験センターの新設により開発力を強化し、制振・免震分野の新製品開発を進めている。面内せん断試験の設備もあり、製品開発に活用している。中規模木造分野にもタツミとの業務提携を通じて取り組んでいる。
釘製品で長期住宅づくりに貢献
文具・建築工具大手専門メーカーの立川ピン製作所(大阪市、立川俊彦社長)は、近年の住宅の長期利用を求める声を踏まえ、長期使用に耐える金物製品の開発を行っている。同社製品の代名詞、ステープルは、2014年に改正された工業用ステープルのJISに合わせ、他社に先駆けJIS A 5556を取得した。改正JISでは、木造住宅のモルタル外壁における長期的な耐久の確保などが要求されている。
乾式木材保存で耐久性向上
ザイエンス(東京都、荒井浩社長)は、防腐・防蟻処理土台、大引きを8工場から供給する。特に主力とするOP保存処理は、油溶性木材保存剤サンプレザーOP-Cを低圧噴射処理によって木材製品に付着させ、注薬缶で加圧減圧処理を行って養生、浸潤させた乾式木材保存処理方法。水を使用しないため、木材の寸法精度に優れ、保存処理後の含水率調整や寸法再調整が不要でKD構造用製材や構造用集成材に適している。釘や柱脚金物、各種接合金物との相性がよく、金物本体や亜鉛メッキなどに影響しない。
新型オメガで展開増やす
日本住宅基礎鉄筋工業会に所属し、住宅用基礎鉄筋販売の老舗であるサトウ(東京都国立市、佐藤進社長)は、耐力+制震金物「オメガ金物」を開発した。同製品では、現代の需要に適した形を追求し、従来タイプに改良を加え、合板と組み合わせた。そして新たな形「Ω(オメガ)システム」を完成させた。新タイプの900タイプと、狭小間口タイプの600タイプがある。900タイプ(3・5倍)、600タイプ(4・4倍)の両方とも耐力壁大臣認定を認定取得している。
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